アイドルになりたい。

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時が経つのは早いもので、もう今年も終わろうとしている11月末。 高層階の窓から眺めた景色は木枯らし吹き荒れる寒そうな情景。 コートを羽織った人が足早に通り過ぎていく。 「また、外見てんの」 静かな足音と共に、ぴたっと背中にくっついてきた自分とは別の体温に少しだけ顔を後ろに向ければ、首元に頬を擦り寄せられてくすぐったさに笑ってしまった。 「うん、だって綺麗じゃん、ここからの眺め」 「飽きないねぇ、もう3年だよ」 でも、もうここも離れるし、今のうちに見とかないとか。 平日の昼間。 なぜ、こんな時間にぼんやり外を眺めているのかというと…夢を追いかけてアイドルになり、今日は久々の休日だから!…ではない。 しがないOL生活からつい先日解放されたのだ。 …永久就職することになって。 「で、お前荷物片付いたのかよ」 「大体ね、マサシと違って私ヒマだし」 「じゃあ俺の荷物、箱詰めすんの手伝って」 人生とは皮肉なもので。 「将来の夢」に“ アイドルになりたい。 “と書いた私の夢は親からの反対で最初の一歩を踏み出すこともなくおじゃんになった。 そしてさらに。 小学校時代、私の夢を見て一番大笑いし、馬鹿にしたこの男がその「アイドル」になってしまったんだから本当に人生ってのは皮肉なものだ。 そしてそして、さらに言うならば、その「アイドル」となんやかんやで恋仲になり、「アイドル」になりたかった私が「現役アイドル」と結婚するというのだから驚きである。 (まあ、もうそろそろアイドルって歳でもないんだけど…) 「お前、卒アルとかってどうしてる?」 「私持ってきてない、実家にあるよ」 「あぁ~、実家に置いときゃ良かったのか」 俺持ってきちゃったんだよね。 マサシとはいわゆる腐れ縁ってやつで、小学校5年生のときから早18年の付き合いである。 中学は別々のところに通っていたが、地域のスイミングスクールに通っていたので毎週顔を合わせていた。 そして受験のために通っていた塾も同じで、高校も同じところに合格。 大学は私は4年制、マサシは通信制で一緒に授業を受けることはほとんどなかったけど同じ大学だった。 …特別仲が良かったわけではなかったけど。
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