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見ると、数段下がった右の端っこに5席ほどのカウンタ-席がある。 席の目の前にある大きなガラス窓の向こうには、夕焼けに染まる海が広がっていて、思わず息をのんだ。 凄い… 車通勤を始めて1年ぐらいになるけど、今まで知らずに通り過ぎていたことを少し悔やんだ。 カウンタ-に座りカップを手にしたままで ぼんやりと暗くなった海を眺め続ける。 しばらくして、レジの方ですさまじくお金が散らばる音がして我に返った。 振り返り、身を乗り出そうとすると、離れた場所にいた私の足元に音を立てて転がってきた500円玉。 それを手に取り、音のした方へと向かう。 レジの側では、しゃがみこみながら散らばったお金を集めているレジの女性と、男の人の姿があって躊躇いながらも声をかけた。 「あの、大丈夫ですか?」 言いながら、腰を屈め膝に手を付いた状態で話しかけると、情けない顔を勢いよく上げた男の人は何故か私の顔を見るなり、何度も瞬きをした。 何…? 私の顔に何かついてる?? もしかしてラテのミルクが口についてるのかと一瞬心配になったけれど ゆっくりと立ち上がった男の人は、恥かしそうな表情で 「すみません、ご心配おかけしました。もう大丈夫です」 そう言って、ペコリとお辞儀をした。 そこでさっき拾った500円玉を男の人に渡し、元いた場所に戻って少し冷めたカフェラテを一口、口に含んだ。
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