序章 出会い

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誰の心の奥深くにも眠っているはずの懐かしい風景、それがここにはある。 遥か遠い上方から光が闇を吸い込んで、世界が淡いオレンジ色に染まっていく。 どこまでも続く山々が、澄んだ空気を浴びて、にわかに息づき始める。 動物や虫の鳴き声が、辺り一面に響きわたる。 そんな場所に彼らは住んでいた。 深い森の中にある開けた草原の中央のあたり、焦げ茶色のレンガ造りの小屋がいくつも集まって、小さな村を形作っている。 質素な茅葺製の屋根は今にも崩れそうだが、なんとかその役割を保っている。 それらの家のひとつから今、少年とぼんやりとした小さな光が飛び出した。 「急げ、フィリア。今日こそ見つけなくちゃ」 少年は、その光に話しかけた。 「わかってるわよ、寝坊したのはローザのくせに」 光は少し不機嫌そうな口ぶりで言う。 光に包まれているのは、妖精だ。透明な輝く翼を細かく羽ばたかせて、飛んでいる。 翼を除けば、人間と姿はほとんど変わらないが、大きさは子供の手のひらと同じぐらいだ。 そして、ローザと呼ばれる少年はエルフ族だった。 エルフとは、人間よりも遥かに長い生命をもっていて、とても賢いと言われている種族だ。 その肌は驚くほどきめ細かく、まるで光を自ら放っているようにつるつるとしていた。 目はど海を思わせる青色でどこまでも澄んでいて、耳の上の端が丸みを帯びて尖っていた。 その中でも、エルフの最大の特徴は妖精を連れているということだ。 エルフと妖精はどんなときでも二人で共に行動し、助け合いながら生きていく。 まさにエルフのローザと、妖精のフィリアはそういう関係だった。 二人は村の外れの草原にたどり着くと、仰向けに寝転がった。 「ほら、もうすぐ夜が明けるよ、フィリア」 突然、森がざわめき始め、鳥たちが一斉に飛び立って行く。 それらが黒い点々になる頃、太陽が山の裾から顔を出した。 その瞬間だった。 一羽の黄金に輝く大きな鳥がどこからともなく現れて、朝日に一直線に向かって飛んで行った。 少年はさっと体を起こして、その鳥を指差しながら叫んだ。 「鳳凰だ!」 フィリアも翼をいつもよりはげしく羽ばたかせた。 「すごいわ、ほんものを見られるなんて」 興奮して声を弾ませている。
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