0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
誰の心の奥深くにも眠っているはずの懐かしい風景、それがここにはある。
遥か遠い上方から光が闇を吸い込んで、世界が淡いオレンジ色に染まっていく。
どこまでも続く山々が、澄んだ空気を浴びて、にわかに息づき始める。
動物や虫の鳴き声が、辺り一面に響きわたる。
そんな場所に彼らは住んでいた。
深い森の中にある開けた草原の中央のあたり、焦げ茶色のレンガ造りの小屋がいくつも集まって、小さな村を形作っている。
質素な茅葺製の屋根は今にも崩れそうだが、なんとかその役割を保っている。
それらの家のひとつから今、少年とぼんやりとした小さな光が飛び出した。
「急げ、フィリア。今日こそ見つけなくちゃ」
少年は、その光に話しかけた。
「わかってるわよ、寝坊したのはローザのくせに」
光は少し不機嫌そうな口ぶりで言う。
光に包まれているのは、妖精だ。透明な輝く翼を細かく羽ばたかせて、飛んでいる。
翼を除けば、人間と姿はほとんど変わらないが、大きさは子供の手のひらと同じぐらいだ。
そして、ローザと呼ばれる少年はエルフ族だった。
エルフとは、人間よりも遥かに長い生命をもっていて、とても賢いと言われている種族だ。
その肌は驚くほどきめ細かく、まるで光を自ら放っているようにつるつるとしていた。
目はど海を思わせる青色でどこまでも澄んでいて、耳の上の端が丸みを帯びて尖っていた。
その中でも、エルフの最大の特徴は妖精を連れているということだ。
エルフと妖精はどんなときでも二人で共に行動し、助け合いながら生きていく。
まさにエルフのローザと、妖精のフィリアはそういう関係だった。
二人は村の外れの草原にたどり着くと、仰向けに寝転がった。
「ほら、もうすぐ夜が明けるよ、フィリア」
突然、森がざわめき始め、鳥たちが一斉に飛び立って行く。
それらが黒い点々になる頃、太陽が山の裾から顔を出した。
その瞬間だった。
一羽の黄金に輝く大きな鳥がどこからともなく現れて、朝日に一直線に向かって飛んで行った。
少年はさっと体を起こして、その鳥を指差しながら叫んだ。
「鳳凰だ!」
フィリアも翼をいつもよりはげしく羽ばたかせた。
「すごいわ、ほんものを見られるなんて」
興奮して声を弾ませている。
最初のコメントを投稿しよう!