無口なチョコレート屋さん

10/11
前へ
/13ページ
次へ
「はい。ソーサーにあるシナモンスティックで混ぜてからお召し上がりください」  いただきます、と小さく呟いたお客様は、ゆっくりと混ぜ、両手でボウルを持ち上げました。 「いい匂い」  私達にもその匂いは届いています。 お客様は一口飲み、また一口、と飲まれました。 口を離すと、ボウルを見つめてこう言いました。 「……不思議な、味。甘いのに、辛い」  ほっ、とする味、とお客様は微笑みます。 「全部飲んでいいんですよ。我慢せずに」  私はそう言いました。 白雪さんも頷いています。 「いい恋、しましたね」 「……え?」 「忘れたくない、いい恋をしましたね」  私は、にっこり、と微笑みました。 お客様は頑張り過ぎです。 我慢し過ぎです。 だから、こう言います。 「泣いても、いいんですよ?」  唇を結んでいたお客様の目から、ゆっくりと、恋の涙が落ちました。 これで私達のチョコレートは完成です。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加