1人が本棚に入れています
本棚に追加
雲ひとつない青空に鳥が一羽、気持ちよさそうに飛んでいる。まるで絵画のように美しい空をぼーっと眺めながら巫月 莉奈(ふづき りな)は現実逃避をしていた。教壇の上では数学の教師がややこしい数式を使って証明問題の解説をしている。そんな話には全く興味がないといった様子で莉奈は空を眺めていた。
しばらくすると授業終了を知らせるチャイムが鳴り教師が黒板を消し、生徒達はざわつき始める。教室内は瞬く間に雑音でめちゃくちゃになるが、教室内でたった二人だけ、誰とも喋らずただひたすらに空を眺める人物がいた。
一人はもちろん莉奈である。彼女は、女子グループでのいざこざが嫌いで、リーダー気取りの女子生徒に刃向かったのだ。そのせいで、全生徒から無視を決め込まれている。彼女は別にその事を後悔はしていない。むしろあんなくだらない連中と関わらずに済むと精々したくらいだった。
そしてもう一人は皺洲 大地(しわす だいち)。彼は先月このクラスに転校してきたばかりで、未だクラスに馴染めていない…わけではなく、転校してきてから今まで一度も言葉を発していないのだ。それ故、誰も彼に話しかけない。もちろん大地から声をかけるわけもなく、今の状況である。
そんな二人を差し置いて、教室内はさらに雑音で溢れかえる。男子生徒の大きな笑い声。女子生徒のよくわからない奇声。あまりにも耳障りだったのか、莉奈は席を立ち上がり教室を出た。そうして上へ上がる階段を登り最上階のさらに上、屋上へと繋がる階段を登り終え、侵入を阻むドアをこじ開ける。
するとそこには窓の枠に縛られないとても大きな空が広がっていた。莉奈は後ろ手でドアを閉め屋上のど真ん中で寝転がる。彼女にとってこの瞬間が唯一落ち着ける時間だった。
始業のチャイムと同時に目を閉じて、太陽の光を全身に浴び、家に帰ってからの予定を考えていた。そのとき、突然太陽の光が何かに遮られた。あたり一面雲ひとつ無い青空だったはずなのに…
まさか先生に見つかったのだろうかと思い、莉奈は恐る恐る目を開ける。すると莉奈の左隣には一人の男子生徒が立っていた。
「お前、こんな所で何をやってる」
聞き覚えのない声、逆光で顔が見えにくくて誰が話しかけてきているのかわからない。
「えっと・・・どなたでしょう」
最初のコメントを投稿しよう!