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「あれは中学校の頃だったかな。今とは違って多くの友人に囲まれた幸せな生活を送っていた。
だがある日、父の転勤が決まり地元を離れなければならなくなったんだ。
そうして引っ越しの当日、沢山の友人達が俺を見送りに来てくれた。
離れていても友達だとか、手紙送るねだとか。まあそんなありふれた台詞を泣きながら言われたのを覚えている。
だがな、連絡が来たのは一回きり。それ以降返事も返ってこない。
所詮奴らにとってはその程度だったんだ。ずっと仲良しだとか君のことは忘れないとか気持ちのいい言葉だけ並べてその場だけ気持ち良くなって終わり。
会えない、遊べない、しょっちゅう顔を合わせないとなっただけで、奴らの化けの皮が剥がれた。
それから俺は友達をつくらなくなった、仲良くなってもしばらく会わなければ忘れられる。なら友人なんていらないじゃないか…そんなもの、他人と変わらないじゃないか…」
大地はそこまで言うと下を向き「長々とすまなかったな」とだけ言って黙り込んでしまった。空はすっかり曇ってしまっていた。まるで彼の心を映し出しているように。
「皺洲君…私はこういう時どんな言葉を返せばいいかわからないのだけれど…」
「何も喋らず聞き流せばいい」
それからしばらくの間、沈黙が二人を包む。雨は降らないけれど降り出してもおかしくはないくらいの曇り空。少し空気が重い。外では体育が行われているのだろうか。体育教師の吹く笛の音と生徒たちがざわめく声が聞こえる。静かになったことでさっきまで気にならなかった音が気に触る。
「まさかあなたにそんな過去があっただなんてね。で、友人を作らないために誰とも喋らないって事ね」
「ああそうだ。沈黙はどうした」
「さっきの風に吹かれていったわ。ねえ皺洲君、あなたは友人が欲しいの?本当の意味での友人が」
「さあな、そんな事は考えた事がなかった」
「あなた、きっと求められたいのね」
「なぜ、そうなる」
莉奈の決めつけるような物言いに呆れている大地。しかし、どこか虚をつかれたような顔をする。
「本当の意味で必要とされたい。特別が欲しい。だから上辺だけの関係を嫌う。そうなんでしょ。でも上辺だけの関係になってしまうのが不安で、自分の殻から抜け出せない。一人でいたいわけじゃ無いのに自然と一人になってしまう」
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