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しばらく待ってみたけれど、結局彼は現れなかった。
仕方なく、今日会うのは諦めて中庭を出た。
そして、廊下を歩いて曲がり角を曲がった瞬間。
目の前の光景を見て、心臓がバクンと鳴った。
目の前から歩いてくるのは、私の大好きな人と。
その、大好きな人が頬を緩めてしまうくらい好きな人。
私の存在には全く気付かず、見つめ合って会話をしながらこっちに近付いてくる二人。
距離が少しずつ近くなるにつれて、私の心臓の鼓動がどんどん速くなっていく。
彼が私に気付く前に、走って逃げ出そうと思ったけれど、足がすくんでその場から動けなくなった。
そしてだいぶ近くなったところで、やっと彼は立ちすくんでいる私に気付いた。
「……夏目」
無視されるかもしれない、と思った。
知らない人のフリをされるんじゃないかって。
でも、彼は私の名前を呼んでくれた。
大好きな、彼女の前で。
「……こんにちは」
「楓、知り合いなの?」
優しく私に微笑んで、彼女が楓くんに知り合いなのか聞く。
その彼女を見た瞬間、私はわかってしまったんだ。
楓くんが、この病院に来ていた理由が。
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