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「この日付を見るたびに、胸がざわざわするんです。妙な不安感というか……。記憶を失くして不安になってる部分ももちろんあるんですけど、それだけじゃなくて……」
「あ、そういえば……!」
何かを思いついたような様子で、孝宏君が言った。
「七月七日、恋架け橋といえば……古くから伝わる伝説があるんだ」
「伝説?」
「うん。伝説というか、言い伝えというか……そんな感じのものがね。なんでも、『七夕の夜、この橋の上で愛を誓い合った二人は永遠に結ばれる』とか『七夕の夜にここで告白すれば、恋が実る』とかそんな感じの話らしいね。伝説ということで、何か根拠があることなのかどうかは分からないから、信じるか信じないかは人それぞれだと思うけどね」
「『恋架け橋』っていう名前もロマンチックだけど、その伝説もすごくロマンチックですね。私の持っている絵馬にも七夕の日付がありますが、これとも関係があるのかもしれませんよね」
「うんうん。七夕まであと五日ぐらいだしね。もしその絵馬が佐那ちゃんの持ち物だとすると、記憶を失う前の佐那ちゃんが、どういう意図で七夕の日付をそこに記したのか、非常に気になるね」
七夕の日付が話題に上るたびに、私の頭はズキンと痛んだ。
そして言いようもなく不安な気持ちも再び襲い掛かる。
「不安になる気持ちは自然だと思うんだけど、あまり考えすぎないようにね。いい加減なことはあまり言いたくないけど、でも、きっといつか記憶は戻ると僕は信じてるから。交番のお巡りさんがひょっとしたら何か情報をくれるかもしれないし。難しいとは思うけど、出来る限り気楽に、ね」
私の不安そうな様子に気づいたのか、孝宏君が言ってくれる。
孝宏君に励まされ、私はかなり勇気をもらえた。
「ありがとう、もう大丈夫。交番までの案内、よろしくお願いします」
私は立ち上がって言った。
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