第1章 7月1日

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「ふむ、なるほど……。それはさぞかしお辛いことでしょう。言いにくいのですが……まことに残念ながら、今のところ何の連絡もありませんな。失踪届けも捜索願も。これから出されるのかもしれません」  お巡りさんは分厚いファイルを見ながら言った。 「あの……私に見覚えはないですか?」  一応、お巡りさんに聞いてみる。 「残念ながら、ありませんな。と言っても、この区画の住人全員の顔を把握しているわけじゃありませんがね」  少し困ったような顔でお巡りさんは答えた。 「それで、記憶を失くされているということですが、これからどうされます? 署はここから二駅ほど先にありますから、そちらへ行かれてはどうでしょう? お名前が分かってらっしゃるようですが、残念ながら区役所は閉まってますので。署で手続きを済ませられると、本日、寝る場所を提供することも可能ですよ」  そうだった。  これからのことを考えなくちゃ。  先のことを思うと、一気に気分が暗くなった。  どうなっちゃうんだろ、私……。
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