第1章 7月1日

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「うん……。この絵馬は間違いなく、あの寒蝉(かんぜみ)神社のものだね。裏に寒蝉神社と書かれているよ」  なるほど、今まで表ばかり見ていて気づかなかったけど、たしかにそう書かれている。  寒蝉神社っていうんだ、あの神社。  聞き覚えがあるような、ないような……。 「佐那ちゃん、失礼な言い方だけど……文字は今、書ける? ここにボールペンとメモ帳があるから、この絵馬に書いてあることをそのまま書いてくれるかな?」  そっか、それで筆跡を調べるんだ……。 「孝宏君、頭がいいですね! 筆跡で分かるんですね。思いもつきませんでした」 「いえいえ」  はにかんだ様子の孝宏君から、ボールペンとメモ用紙一枚を受け取ると、私はそこに絵馬に書いてある通りのことを書いた。  名前の「来栖野佐那」の部分を書くとき、まるで知らない人の名前を書いているように、親しみを全く感じなかったので、これが私の名前かもしれないということを考えると、不思議な気分になる。  文字に関しては、漢字もすらすら書けるのに……これが自分の名前かどうかに確信が持てないなんて……。
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