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「間違いないね」
私が書き上げたメモと、絵馬を並べてみて、首を縦に振りながら孝宏君が言う。
私にもはっきりと分かった。
この絵馬を書いた人物に関しては、少なくとも私ってことで間違いないってことが。
「ええ……。この絵馬、私のものみたいですね」
「日付と佐那ちゃんの名前しか書いてないってことは、佐那ちゃんも恋愛祈願に来たみたいだね」
再び視線を絵馬に戻した孝宏君が言った。
「え? どういうことですか?」
「あの神社には、独特のおまじないのようなものがあってね。恋愛祈願に限り、絵馬に、『来た日の日付、自分の名前、好きな人の名前』の三項目だけを記入して、奉納するんだ。なぜこんな不思議なおまじないが存在するのかは定かではないんだけど、クラスメイトに見せてもらった雑誌の記事によれば、『以前、こういう絵馬を奉納し、見事に恋が叶った人がいた』ってことが由来らしいね。確固たる裏づけもないし、どこまで正しいのかは分からないけど、このおまじない自体はそこそこ有名みたいだよ」
「なるほど……。ご説明ありがとうございます」
そっか、私、好きな人がいたんだ。
孝宏君みたいに、かっこいい人なのかな。
好きな人のことまで思い出せないなんて……。
家族や友達どころか、自分のことすら思い出せていないから当然といえば当然だけど……やっぱり、つらい。
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