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「でも変だね……」
孝宏君が絵馬に視線を落としたまま、怪訝そうな表情でつぶやいた。
「何がでしょうか?」
「まず第一に、日付がね。今日は七月七日じゃなくて七月一日だから。さっき言った通り、普通は奉納する日の日付を書くはず」
なんで日付が違うんだろう。
「日付を間違えたんでしょうか……」
「うーん、何とも言えないね。でも、一日二日ならまだしも、こんなに大幅にズレているなんて、おかしいかも」
確かに、孝宏君の言う通りだ。
孝宏君はさらに続けた。
「そして次に、どうして佐那ちゃんがこれを神社の外まで持って来てるのかってことだね。普通はすぐに奉納するはずなんだ」
私にも全く分からないので、黙って孝宏君の言葉の続きを待った。
「最後に、どうして佐那ちゃんの好きな人の名前が書かれてないのかっていうことだね」
「そうですよね……。さっきのお話では、好きな人の名前を書かないと意味がないみたいですし」
謎が多すぎる……。
「うーん……分からないことが多すぎますね……。あと、何が原因で記憶を失ったのかも全く分かりませんし」
「そうだね……」
孝宏君はややうつむき加減になって言う。
「でも、佐那ちゃんの家はきっと近所にあるんだと思うよ。見たところ、持ち物ってこの絵馬だけだよね?」
「あ、ほんとだ」
そう言われてみれば、たしかに。
財布もバッグも持っていないっていうことは、ひょっとしたらこの神社から手ぶらで行き来できる距離に家があるのかも。
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