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「あと考えられるのが、佐那ちゃんが何者かに襲われてしまって、気絶している間に、バッグなどを奪われてしまったってことだけど、本当にどこも怪我していない?」
念のためにもう一度、自分の身体を確認してみたけど、どこにも異常は見当たらない。
私はそれを孝宏君に伝えた。
「不安にさせるようなことを言ってごめんね」
「いえいえ、いいんです。私自身、自分の身に何があったのか、さっぱり分かっていないので」
そこで、しばし考え込む孝宏君。
数十秒ほど間があって、やがて彼が口を開いた。
「手がかりが少なすぎるし、とりあえず交番へ行こうよ。佐那ちゃんがこの近所に住んでいるのなら、きっとすぐに身元が分かるはずだから。交番の場所は僕が知っているから、ついてきてね」
「え? 案内してもらっていいんですか?」
「うん、もちろん。放っておけるわけないでしょ」
「あ、ありがとう……」
記憶を失って不安になっている心に、孝宏君の優しさがしみわたった。
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