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額同士がくっつくんじゃないかってくらい顔を近づけて言われたから、目しか見えなかった。
ううん、その真剣な瞳から、目を離せなかったんだ。
彼が、どうして由紀ちゃんに手を出せなかったのか。
由紀ちゃんが、どうして抵抗しなかったのか。
――なんとなく、悟った。
「寝るか、明日があるんだろ」
立ち上がった男は、奥のベッドへ向かおうとする。
彼の言葉も行動も、当然別々のベッドで寝ることを意味していた。
引き留めたのは、私の方だ。
その瞬間の自分の心理など、正確には分からない。
「何……あれくらいで火ぃ点いた? 相手して欲しいんなら――」
「そういうんじゃなくて」
抱かれたいとか、して欲しいとか、そういうのじゃなくて、ただ。
「……一緒に寝ようよ」
――『お前女なんだから、尚更』。
軽薄で誰とでも寝る女、そう思われているはずなのに。
『結構きちーぞ』
私だって傷付くのだと、分かってくれた。
それが、嬉しくて。
抱かれなくていい、別に好きとかそういうのじゃない。
ただもう少しだけ触れていたいと、そう思った。
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