second X'mas

31/40

101人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
「結局ソレで通すんだ?」 少しの沈黙の後、笑いながら彼はそう言った。 ホッとしているような残念がっているような、なんとも言えないニュアンスで。 抱き枕みたいに抱え込んで放さない男の腕の中で、私も頬ずりしたり悪戯に鎖骨を舐めたりした。 たまにふと思い出したような間隔で、男の手は私の身体を軽くまさぐった。 熱のこもった息や甘い声が、少しくらいは漏れたかもしれない。 けれどそれをひた隠し押し殺していたのも、お互い様の、バレバレの演技だった。 ――それだけだ。 それ以上でも、以下でもなく。 だって最初に約束した。 『サークル内にセフレは作らない』と。 「聡史」と、ふと彼の名を呼んでみた。 その時だけ彼は、いやに焦点のはっきりした目を見開いた。 「覚えてたのか」 驚いた様子の男に、微笑む。 「って、呼んであげてもいいよ。『店長』でも、『鍵本さん』でもなく」 「何その言い方、なんか条件ありそうだな」 その『条件』を聞いてこようとしない男の腕の中で、私も心の内だけにとどめた。 ――あなたがもし、私の名前を覚えていてくれたのなら。
/43ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加