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時折うつらうつらしながら、それでも互いに眠れない夜が明けようとする頃にその人は言った。
「……タイミング、なんだよな……」
まるで独り言のように呟かれたそれに、返事はしなかった。
彼もそれきり寝落ちしたように静かになったけれど、多分、寝たわけではないことを互いに分かっていた。
もしもタイミングが違ったら。
出会うタイミングが、2人で話すタイミングが、この距離に近づくタイミングが少しでも違ったら、或いは――。
或いは?
もしも何かが少し違ったら、今日私たちは身体を繋いだかも知れなかった。
もしかしたら、そんなことになる前に、普通の――正しい順番で恋をしていたかも知れなかった。
タイミングひとつで、男は生殺しみたいな目に合わずに済んだかもしれないし、私はもっと素直にこの腕に甘えることが出来たのかも知れない。
なのに不思議と、こんな可笑しな――不埒で誠実で、甘く切ない夜を過ごしたことに後悔はなかった。
閉ざしたカーテンの隙間から光が射し始めた頃、ついに自分の気持ちを認めざるを得なくなっていた。
身体を繋ぐ前に心を許し、心が先に相手に溺れたのは、ここまで無防備に恋に落ちたのは、もしかしたら最初の男以来だったかもしれない。
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