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入る前に彼が言った通り、店内もこじんまりして洒落た雰囲気など微塵もない。
別に小汚いと言うほどの不潔感はないけどどうにも雑然としていて狭苦しく、カウンター席にはどうやら常連らしき1人客が並んでいた。
彼も常連メンバーの様子で、同年齢くらいの店主らしき男に気安く声をかけられカウンターに誘われたけれど、彼は片手を上げてそれを断ると2つしかない座敷席に陣取った。
席に着くなり早速足を崩して腕まくり……飲み気満々じゃんか。
「あ、ほんとに美味しい」
「だろ?」
付きだしで出された牛たたきは、一口頬張っただけでこの店のメニュー全部に期待が膨らむ美味しさだった。
別に彼を褒めたわけじゃないのに、何故か得意げなどや顔をされる。
「クリスマスデート向きではないけど、普段ちょっと飲みたい時にはいいね」
「デートなら違う店選ぶって」
そういう店も知ってます、とでも言いたげな目が癪に障った。
私には赤暖簾がお似合いとでも?
いや、ここの料理に文句はないけど。
雰囲気の問題だ。
「美女と2人きりよ。クリスマスに飲んでるのよ。これをデートと言わずになんと言う」
「飲み会?」
そう言って笑いながら、彼はジョッキを呷る。
ごくごくと音すら聞こえてきそうな小気味良いリズムで上下する骨ばった首筋が曝されて、気付かれないように、私も喉を鳴らした。
――のに。
間髪入れずにカウンターの奥へ向けて空いたジョッキを掲げると、大きな声で「お代わり!」と注文する男。
くっそ、ムード!!
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