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「へえ? 言ってくれるね、あんた」
「その『あんた』っての、やめてくれない? ちゃんと名前があるんですけど」
皮肉を込めて睨み返せば、今度は意地悪気に片方だけ口角を上げる。
そして、
「リンゴスター?」
言われた呼び方に、思わず箸の先に摘まんでいたサラダを取り落とした。
『りんご☆』と言うのはくだんのSNSで利用している私のハンネだ、もちろん本名ではない。
☆をスターと読まれると、やけに恥ずかしい。
「左利き」
と言いながら、彼は箸を持つ私の手を指した。
「なのにバインはレギュラースタンスだった」
「!」
――確かに、ゲレンデで一緒したけど。
実際一緒に滑ったのはほんの少しで、ほとんど別行動だったのに。
バインディングの向きなんて、よく覚えてるな。
左利き用のグーフィーだから印象に残ったならともかく、一般的なスタンスなのに。
リンゴスターは、左利きだけど右利き用のドラムセットを使ったらしい。
ビートルズの音楽は耳に優しくて好きだけど別にバンドメンバーに興味はないし、事実かどうかは知らない。
なんならドラムに左右があることすら、その情報を聞きかじった時に初めて知ったくらいだ。
なんとなく自分と同じだな、と思った。
ハンネを安易に決めた時にポンとその名を付けたのも、確かにそのためだ。
が、言い当てられると悔しい。
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