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浅い会話を繰り返した。
皮肉と嫌味の応酬は最初はイラつくだけだったのに、程よく回った酔いも手伝ってか、だんだん気持ちよくなってくる。
甲斐性の無い優男かと思いきや、意外とこの人には口では敵わなそうだ。
認めてしまえば、言い負かされるのすら心地良かった。
BGMには演歌とか懐かしい歌謡曲ばかりが静かに流れていた。
愛欲と嫉妬とセックスを唄うドロドロした歌詞がしっとりと、右耳から左耳へ抜けていく。
ふとした折に、彼の饒舌は度々途切れた。
それは例えば私が彼の恋愛観を突いた時だったり、演歌歌手が他人に取られるくらいなら殺してでも自分のモノにしたい狂愛を歌い上げた時だったりする。
すぐに何事もなかったかのように振る舞う彼のお酒のペースは、その度に少しずつ上がって行った。
「本格的なヤケ酒ね、だっさ」
「クリスマスにこんな美女と2人きりなら、そりゃ酒も進むよ」
――初めて彼が、色を含んだ艶っぽい目で、あからさまに『女』を扱う時のような甘いセリフを口にしたけれど。
全っ然、嬉しくなかった。
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