第18話「らめぇ」

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 僕は激しい突っ込みを入れたくなりながら、ぐっとこらえる。そして、どんな文脈で、その言葉が出てきたのだろうと考える。僕はその台詞を、主に性的なマンガとか、性的なゲームとか、そういった場所でしか目にしていない。いや、確かにネットの掲示板などで目にすることもある。しかし、それは、ある行為中の女性が、ろれつが回らなくなり、抵抗や、拒絶や、現状否定の意思表示のために使うことが、圧倒的に多いのだ。その状態を、先輩は僕に語れと言うのか。  僕の机に、何かが置かれる音が聞こえた。何だろうと思い、目を向けると、そこには三年生でちょっと強面、女番長と評判の名高い、吉崎鷹子さんが立っていた。鷹子さんは、高圧的で、暴力的で、僕によくアニメや、マンガや、ゲームを持ってこさせては借りていく。そして、僕を部室の真ん中で立たせて、それらの作品の批評や解説をさせるのだ。  そんな鷹子さんは、黒い紙袋を僕の机に置いていた。僕はその紙袋の中に何が入っているのかを知っている。ちょうど三日前のことだ。鷹子さんに「サカキ、てめえがプレイし終わったゲームを何か貸せ!」と脅迫されて、仕方なく貸したゲームだ。  タイトルは「らめぇ、淫モラルな女教師2~闇落ち編~」というものだ。鷹子さんの趣味には合わないだろうと思ったけど、ちょうどプレイ直後だったから貸したのだ。僕はクリアまで一週間かかったけど、鷹子さんは三日で返しにきた。きっとお気に召さなかったから、すぐに突っ返しに来たのだろう。  ちょうどそこまで考えたところで、紙袋から手を放した鷹子さんと目が合った。楓先輩も、鷹子さんの存在に気付いたらしく、目を向ける。 「ねえ、鷹子。らめぇって、知っている?」  ぶっ! 僕は思わず声を上げそうになる。そして鷹子さんの顔を見た。モデルのようにシャープな顔が赤く染まっている。そして、「聞かなかったことにしよう」といった様子で、視線を背けている。ああ! そのことで、僕は気付いた。鷹子さんは、「らめぇ」を知っている。そして、どこまでプレイしたか知らないけど、「らめぇ、淫モラルな女教師2~闇落ち編~」を、遊んでいたようだ。 「サカキ、これは返したからな。私は自分の席に戻る」
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