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平静を装っているつもりのようだが、鷹子さんの目と動きは、挙動不審者のそれになっている。楓先輩は、そのことを不思議そうに見ている。そして、僕の机の上に、黒い謎の紙袋があることに気が付いた。
「ねえ、サカキくん。その紙袋は何?」
「えっ? いや、何でもないですよ。らめぇとは、まったく関係ないですよ。ねえ、鷹子さん」
「おっ、おう。無関係だ。まあ、見るほどの価値もないものだな。な、なあ、サカキ」
「ええ~~! プレイする価値のあるゲームですよ。この作品のよさについて、ガチで語りましょうか?」
「馬鹿。今は、そういったタイミングでは!」
「ねえ、サカキくん。鷹子。その袋の中身は、らめぇに関係があるの?」
楓先輩は、無邪気な様子で、僕と鷹子さんに尋ねてくる。僕と鷹子さんは、言わなくてもよい台詞を大量にしゃべってしまったことを知って、気まずそうに顔を見合わせる。なぜか、僕と鷹子さんは、楓先輩に対して、共犯者のような立場になってしまった。
僕は、鷹子さんの耳に顔を近付けて、小声でささやく。
「もう、鷹子さん。何でこのタイミングで、らめぇを返しに来るんですか?」
「知らねえよ。私が返しに来たら、たまたま、楓が、『らめぇって何?』とか、言いやがったんだよ」
「どうするんですか、鷹子さん。楓先輩の好奇心は、並大抵ではないから、きっと引き下がりませんよ」
「お前、口が上手いだろうが。適当な説明でごまかせ」
「嫌ですよ。僕は楓先輩には、嘘を吐かない主義なんですから」
「分かったよ。協力してやるから、何とかしろ」
「仕方がないですね。ちゃんと手伝ってくださいよ」
僕は鷹子さんを、恨みがましそうににらむ。
「ねえ、サカキくん。鷹子。何を話し合っているの?」
「「いや、何も!」」
二人でハモるようにして答えたあと、僕は一計を案じる。ここは辞書的な説明をするべきだろう。そのシチュエーションを具体的にイメージできないように、無味乾燥的に述べるのだ。そうすれば、先輩は、脳内の辞書に、そういった言葉だと記憶して、それがどういった妄想をかき立てる言葉なのか、頭の中で組み立て直したりしないはずだ。
「では、説明しましょう、楓先輩」
「うん。教えてサカキくん。らめぇを」
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