第18話「らめぇ」

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 鷹子さんは、悔しそうに僕をにらんだあと、仕方がなさそうに楓先輩に顔を向け、顔を真っ赤にして口を開いた。 「ら、らめぇ……」 「もっと、激しく!」 「ら、らめぇ!」  羞恥の色に染まった鷹子さんは、その言葉を告げたあと、一転して僕の頭に拳骨を落としてきた。 「何を言わせるんだよ、サカキ、てめえ!」  僕は、鷹子さんにヘッドロックされる。 「うわ、痛いです」  その悲鳴を上げたあと、僕は横で魂を抜かれている楓先輩に気が付いた。何かを見て、呆然としている。僕はその視線をたどり、顔面を蒼白にする。僕と鷹子さんが暴れたせいで、紙袋が倒れて、中身が机の上に転がり出ていた。その箱を、何だろうと思い、楓先輩は手に取って固まっていたのだ。 「らめぇ、淫モラルな女教師2~闇落ち編~」そのパッケージを持った楓先輩を見て、僕は顔を手で覆う。その箱には、こんな絵が描かれている。抵抗も虚しく、男に調教される女教師の姿が。そしてその顔には、羞恥の中にも、芽生えつつある快楽と、それを否定しようとする形ばかりの抵抗が浮かんでいる。楓先輩は、そういった猥褻物を見て、思考の歯車を停止させていた。 「借りたものは返したからな。私は去るぞ」 「うわっ、ずるいですよ、鷹子さん!」  鷹子さんは、走って逃げる。 「サカキくん」  振り向くと、楓先輩がぷりぷりと怒った顔で、僕の横に座っている。先輩は左手で僕の腕をつかんで、もう片方の手でパッケージを持っている。 「こんなエッチなものを、学校に持ってきてはいけません!」 「いや、今日持ってきたのは、鷹子さんなんですが」 「鷹子も!」  鷹子さんは、すでに部室から抜け出ていた。おかげで楓先輩の矛先は、僕だけに向かってしまう。楓先輩は、僕の顔を見上げて、きっとにらむ。その距離は、ほんの数センチのところで、僕はドキドキしてしまう。僕と目が合ったことで、楓先輩は眼鏡の下の頬を紅潮させて、もじもじと態度を軟化させた。 「駄目ですよ。先輩として、サカキくんに注意しておきます」 「はい」 「こんなものを持ってきては、らめぇ…‥」
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