第一章 月の少年

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 守は瑠璃の目を覗き込んだ。この男にはなにもかも話さなくてはいけないようなそんな気分になり、瑠璃は急に胸が苦しくなる。 「君はさっき寝ている間うなされながら、ここから出して、と言っていた。君は、月から離れたいのか?」  瑠璃ははっとしてその言葉を遮るように立ち上がった。 「帰るよ」 「えっ?」  瑠璃はベッドの脇に置いていた下着とズボンをすばやく着ると、シャツを軽くはおり、ドアのほうに進む。 「助けてくれてありがと。でも俺とあんたじゃ身分が違いすぎて。いや。このままここにいてもなんだか苦しい」 「瑠璃くん、君は……」  目を合わせるつもりはなかったのについ目を合わせてしまった。彼の何も知らない瞳を見ているうちに、言うつもりもなかった言葉が口から出た。 「ああ、そうだよ、あんたの言うとおりだよ、俺はここから出たいんだ! あんた地球の人なんだろ? 地球の人は俺たちとはずいぶん違う生活をしてるって言うじゃないか。とてもうらやましい、うらやましいんだよ。俺も地球に行きたい、でもダメなんだ、俺達はダメなんだ。わからないよ、どうしてなんだよ。なんで俺達はダメなんだよ! 第6ドームみたいなゴミためのようなところに追いやられて。捨てた両親を恨んでる憎んでる。こんなところから抜け出したい。もうこんな生活は嫌だ!」  瑠璃は感情の高ぶりを押さえきれずに部屋を飛び出した。守が何か叫んでいたが、気に留めている余裕がなかった。これ以上その場にいるのが辛かった。
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