第一章 月の少年

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 俺は捨てられるために産まれた。意味のない誕生。  俺は貶められるために産まれた。人々の優越感のために。  俺は慰めのために産まれた。そいつらの欲望のために。  俺は人間のようで人間じゃない、今や心も体も氷の塊だ。  それはただ暇をつぶすために劣情に溢れた人間に弄ばれるだけの人形。  関心がなくなると、遊び飽きて冷たいコンクリートのごみ置き場に転がされる。  そして誰からも忘れられる。  月にある第6ドームの薄汚れた町に一人の少年が佇み、虚空を睨みつけていた。  黒く無常な空と対照的に、彼の瞳の色は透き通るようなエメラルドに輝いている。  何の因果か彼はこの朽ちかけたドームにいる。  彼らの住むドームでは女性の姿はなかった。  彼は生まれてから女性の顔も姿もほとんど見たことが無い。  その存在を微かに知っているのは煤け、所々破れたモノクロの本に、消え入りそうに薄く印刷された物だけだった。  21世紀に地球と月との間に巨大スペースコロニーが完成し、民間のフライトが自由になった。  その先の月への移住 開発に各国は熱気を帯びる。 しかし月へは、物質の運搬に莫大な費用がかかることや幾度かの不慮のフライト事故が重なり、移住開発はままならない時代が続く。  しかし数々の難を乗り越え、人類はついに二十二世紀中ごろ月への移住に成功する。  地球にとって影の存在だった月の華やかなりし時代の到来。誰もかれもがこぞって月へのフライトを心待ちにしていた。  それから150年経った2300年。  月での生活が定着し、更なる星への発展に各国が全力を注いでいた。  次第に人類の興味も月よりその先の惑星、火星へ向き始めていた。  宇宙開発が進むにつれて、人類は別の問題を抱えるようになる。  地球では現在、月へ人類が進出した頃から次第に女性の出生率が下がってきていた。  月に住む住人の中でも地球に生まれた者もいる。何人かは男とわかるとまずDNAを調べられ、その人間に階級がつけられる。両親の能力、組み合わせによって受け継がれる高い能力があればあるほど地球や女宮殿の側近として残る事ができる。
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