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今また滑走路を走り出そうとエンジン音を立てている飛行機が一つ。
ギスタリ国のトルム地区から、無法地帯と化した同国のラギ地区へ向かう小型旅客機。
それに搭乗する客はほとんど麻薬か武器の売買目的の密輸業者。
観光客どころか国民でさえ近づきたがらない場所への飛行。
そんな機内の中程に、先程の猫のように鋭く大きな目を窓に向け、外を眺める女が座席にいる。
黒髪の短髪に黒のシャツにとカーキ色のパンツに身を纏う彼女の顔は、少女というには大人びていて、大人というにはまだあどけない。
重々しい雰囲気を漂わせていることから観光目的ではないことは明らかだ。
心内に秘めた激しい憎悪が、窓に映る彼女の瞳の中に渦巻いていた。
少女の名前はミシア・レガント。
トルム地区一帯を仕切っていた豪族の頭だったレガント家のエストリオと、ジュナの間に生まれた一人娘だ。
ジュナは早くに病死し、父親のエストリオとその仲間がミシアの面倒を見ていた。
特に面倒見の良かったシモンと呼ばれていた男はエストリオの右腕だった。
だが、幸せは長くは続かなかった。
五歳の誕生日を迎えて間もなく、仲間の裏切りによってエストリオは殺されたのだ。
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