第1章

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『ナベに入ってるの温めて食べて。 バイト行ってくる。 仕事頑張れ!』 箇条書きのように三行に書かれたメッセージ。 (仕事がんばれ!………か) 長谷川さんの帰国から数日、俺は自宅に帰らずこの家から会社に通っていた。彼が死んだと聞かされたあの事故の後遺症か、少しの間でも離れているのが怖くなったせいもあるが、何となく…長谷川さんの雰囲気が変わったことに対する不安も…無くはない。どこが変わったのかと問われると説明に困るくらい微妙な感覚でしかないのだが。 毎晩それとなく求めてくれる彼に 『今仕事が行き詰まってて…』 と遠回しに疲れてるからと断れば、求めた自分を恥じるようにゴメンと謝られてしまった。大好きな彼にそんな表情をさせてしまった自分が不甲斐なくて落ち込んで………。 (悪循環…だな) 仕事は至って順調だ。と、言うより給料がそこそこ貰えて楽な仕事を選んで就職したのだ。 『行き詰まる』 なんて状態にはなり得ない。長谷川さんに嘘をついてることと、その嘘を信じた彼に励まされていること。このダブルパンチがボディーブローのようにじわじわと俺の下半身に効いてくる…勿論、悪い意味で。 (このままじゃ再起不能になっちまう…) 不能なだけに…。と脳内ツッコミを終えたころには朝食を終え、歯を磨いて鏡で全身チェックを済ませ、玄関を出ていた。料理上手な長谷川さんの手料理が一日二回も食べられるのに、なんとなく罪悪感を感じずにはいられない。 働かざるもの食うべからず……。 (だよなぁ…) マンションを出てエレベーターで一階に降りれば目の前にメトロの入り口があり、その近さは雨の日でも傘を差す必要がないほどだ。まぁ、夏場のスコールともなれば話は別だが。 改札を通り抜け見慣れたホームに長谷川さんの背中を見つけた途端、柄にもなく胸がキュンとなる。 (ったく…俺は乙女かっつうの) どうしてああ立ってるだけで堪らなくカッコイイのだろうあの人は。自分より18センチも小柄な彼を相手に恋い焦がれる乙女にでもなったような気分になる。 (あの人。俺のなんだよなぁ……) 心も体も。 そう思えば歓喜に震えだしそうなほど好きなのに……。 「ドアが閉まりまーす!」
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