第4章

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ブホっ! 私の堪えきれない笑いが出てしまい、にぃに睨まれる。 神田さんの両親との顔合わせ。 あり得ないくらいガチガチに緊張したにぃの姿が可笑しすぎて吹き出してしまった私。 でもお蔭で緊迫した雰囲気だった空気が緩やかなものになった。 ホテルの一室。 とても落ち着いた雰囲気の部屋に通された私たちは先に来ていた神田家に挨拶をして席に着いた。 一通り食事が終わるころには、両家とも和やかムード。 ゴリラだし馬鹿だし受け入れられるか心配だったけれど、結構気に入られてるみたい。 一人っ子で甘やかしてしまってと優しそうなお母さんが言う。 我儘な子でしょう?とこれまた優しそうなお父さんが言う。 にぃは『いえ、そんな事は!』と気の利いた言葉すら出てこない。 いつもは無口な父親も今日はなんだか嬉しそうだ。 とても幸せそうな顔を見ていると、今更『なんでにぃと?』なんて聞けないけれど。 そっか。 人はこんなにも幸せな顔ができるものなんだ。 結納は省略しましょうとお互い承諾しあい、年内には式を挙げたいと話がまとまった。 「春花さん」 帰り際呼び止められる。 「あの、不束者ですがよろしくお願いします」 と頭を下げる詩音ちゃん。 小姑になるつもりは毛頭ない。 「いや、あのこちらこそ馬鹿ゴリラを・・・兄をお願いします」 フフっと笑う詩音ちゃん。 「いや、やっぱり考え直すなら今だよ。 詩音ちゃんみたいに可愛い子があの馬鹿ゴリラでいいの? って、あれがいいから結婚するんだよね」 「はい」 嬉しそうな顔の詩音ちゃん。 「よろしくね」 「はい!」 清々しい笑顔だよ、ホント。 にぃは詩音ちゃんと出かけるからとこの場で別れた。 父親と母親もせっかく出てきたからとその辺をブラブラして帰ると言うから私は先に帰ることにした。 いつもは着ないようなワンピースとピンヒールで足が痛くて仕方なかった私は勿体ないけれどタクシーで帰ることにした。 ホテルのタクシー乗り場に向かおうフロントの前を通りすぎようとしたとき、主任が綺麗な女性と笑いながら歩いてる姿を見かけた。 あの時のレンタルビデオ屋で見た女性。 足が止まった。 主任もこちらに気が付いて足が止まった。 数メートルという至近距離。 会釈だけして再び歩き出す。 何よ。やっぱり彼女いるんじゃない。
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