第4章

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鼻の吸いすぎで頭がボーっとするなか、なんとか午後の業務を終える。 やばい。 クラクラするかもしれない。 うつさないでと新子が昼から持ってきたマスクをしている私は息苦しさがMaxだ。 「お先に失礼します」 ときちんと発音できてるかどうか微妙だけれど、とりあえずみんなに断りを入れてさっさと帰る。 今から行けば病院、間に合うだろうし。 近所のかかりつけの病院には一応連絡を入れておいたから多少遅れても大丈夫だろう。 歩く気力がないから贅沢だと分かっててもタクシーで向かう。 ユラユラと揺られているといつの間にか寝ていたらしく、運転手さんに起こされた。 お金を払ってそのまま診察券を財布の中から取り出して病院内に入って受付を済ませた。 問診票を書きながら熱を測ると、7度とこれまた微妙な数値。 待合室でボーっと座っていると、小さな男の子が私の横にあるマガジンラックから絵本を持ち出した。 うっわ。可愛い。 「ママーこれ読んで」 パタパタと走りながら絵本を両手で抱えるようにして母親の元に向かう。 その先には、あの日主任と一緒に居た女性がにこやかに座っていた。 『ママ』そう呼んだよね? 確実に『ママ』って。 頭がクラクラスするのは熱があるからだろうか? それとも・・・ 視界が滲んでいく。 慌ててハンカチで目元を拭う。 楽しそうに絵本を覗き込む男の子。 時折指差して『くまさん』とはしゃぐその姿。 どこか主任に似ている。 彼女じゃなくて奥さんだったんだ。しかも子供まで居たなんて。 遊びのつもりで私と付き合おうなんて言ったの?そんな人だったの? 「篠田くにひとくーーん」 会計の人がそう呼ぶと、あの綺麗な女性が立ち上がり男の子に『絵本返してきて』とお願いした。 会計を済ませ私の横を通り過ぎる親子。 主任の馬鹿・・・ 主任の馬鹿・・・ 私の大馬鹿・・・ その後、診察を受け風邪と診断され薬を貰って家に帰った。はず。 気が付けば自分の部屋のベッドの上だったからちゃんと帰ったんだろうけど、記憶が曖昧でよく覚えてない。 母親がアイスノンを持って部屋に上がってきた。 「馬鹿は風邪引かないって言うのにねぇ」 なんて言葉に反論する気力がない私はただただ『そうだね』と頷くだけだった。 ひんやりとした感触。 気持ちがいい。
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