第4章

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「でも、その恐ろしい勘違いのお蔭で綾瀬は告白したんだから優真さんには感謝しないとな」 ああ、空耳かしら。遠くの方でまだ笑い声が聞こえるのは。 「綾瀬・・・」 頬に手が触れる。 「あの・・・」 何かを言いたかった訳じゃない。 主任の熱っぽい瞳を見て逃げないと食べられると感じた私はお尻をずらして距離を取ろうとしたのに。 主任の方が早かった。 腕を取られたかと思った瞬間には唇が触れていた。 「あの」 「黙って」 唇が触れるか触れないか、ギリギリの距離。 一瞬だけしか触れてないのに、背中がゾワリとする。 腕を取った手と反対の手が伸びてきて私の唇に触れる。 「綾瀬、口開けて」 主任が喋ると息がかかる。 言われた通りに少しだけ開けると主任の指が口内に侵入してきた。 舌に触れる指先。 たったそれだけなのに、とてもつもなく自分がいやらしい事をしている気分になる。 歯列をなぞる指。唇の端まで来るとチュルンと指が抜き取られる。 その瞬間、再び唇が触れる。 開いたままだった口に簡単に侵入する舌。 生暖かい感触がやけにリアル。 追いかけっこのようにお互いの舌が動く。その度に水音が耳に届く。 ―どうしようもなく気持ちがいい 腕を取っていたはずの主任の手がいつの間にか私の腰に回って体が密着する。 もっと・・・ もっと主任を感じたい・・・ 主任の洋服の胸辺りをそっと掴む。 「今日はここまで」 夢中になって主任にしがみついていた私をそっと引き離す。 「ここで襲うのあんまりでしょ。やってる最中に優真さん入ってきたら困るし」 襲う。最中に入ってきたら。 なんて言葉に目が覚める。 何て事を! お付き合いするかどうかも分からない人とキスを・・・しかももっと感じたいとか・・・ 「そろそろ収まったかな?」 視線がドアの方を向いたからその言葉が優真さんと邦子さんの事だとすぐに理解する。 「収まってくれないと困ります」 「慌てる綾瀬も面白かったけど」 「止めてください。記憶から抹消してください。時間を戻してください」 「どれも聞けないお願い事だよね」 やっぱり意地悪な顔をする主任。 「そうだ・・綾瀬、携帯貸して」 「携帯・・ですか?」 「連絡先、ないと困るだろ。 毎回内線で用件言われてもな」 「それは・・仕方ないじゃないですか」
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