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「さっき二人で楽しそうに話してたでしょ」
「あれは準備が大変だったって言ってただけです。
楽しそうなのは主任じゃないですか。
女の人に囲まれて」
「やっぱりやきもちだ」
「違います」
「じゃ、一緒にする?」
「しません。
ほら呼ばれてるみたいですよ」
向こうの方で『しゅにーーーん』なんて言われちゃってさ!
「飲み物、足りなさそう。
綾瀬、付いて来い」
「は?」
カップを取り上げた主任はそれをテーブルに乗せると私の手を取って歩き始める。
意味が分からないがそのまま黙ってついて行く。
駐車場に止めてある一台の車の後ろに来ると、トランクを開けた。
「勝手に開けたら」
制止する私を『大丈夫』と促す。
「ほら、その袋の酒持って」
缶チューハイや焼酎の入った袋が二つ。
「買い出し班の車。そろそろ次冷やしとかないと」
「重いですけど」
「仕方ないな」
そう言うと袋から二本缶チューハイを出して私に渡す。
「綾瀬の分。そっち俺持つから」
「これって別に私居なくてもいいと思うんですけど」
「残念。二人っきりになりたかったの俺だけ?」
突然の言葉に、固まる私。
どう反応していいのか分からない。
「で、俺だけ?」
「俺だけです!」
恥ずかしくて大きくなる声。
「あっそ」
袋を二つ持ってバタンとトランクを閉めると歩き出す主任。
「あ!」
数歩先を行く主任の後姿に手が伸びる。
「ん?」
振り返った主任の顔を見て『なんでもないです』とやっぱり声が大きくなる。
だって、『ほうら』なんて顔するんだもん。
「あ~あ、強情っパリ」
「早く冷やさないとみんな飲み物無いって暴れ出しますよ」
「そうだな。みんなよく飲む連中だ」
歩き出したかと思ったらすぐに立ち止まってクルリとこちらを振り返る。
「どうしたんですか?」
「忘れてた」
車にまだ何か残ってたのかな?
そう思って待ってようと立ち止まると私の前で主任も止まった。
「何k」
何かって聞こうと思ったら一瞬唇が触れた。
本当に一瞬ですぐに主任は歩き出した。
「何してるんですか!」
誰かに見られたらどうするんですか!
慌てて主任の隣を歩くと
「して欲しそうだったけど」
「欲しくないです」
「ホント?」
「本当です」
「ホントに?」
「本当に」
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