4人が本棚に入れています
本棚に追加
俺が凜って名前で呼んでも食事奢ってもふたりだけで会ってても何にも反応ないとか鈍すぎなんだよ…と小声で一通りぼやいた花木は、キッと睨むようにしてあたしと視線を絡めた。
そして。
「チョコ、ちょーだい」
「…は?」
「彼氏にやらなかったバレンタインチョコ、あるんだろ。それ俺が食う」
確かにあの男に渡さなかったチョコレートは、あるにはあるが。
自分のために作られたものじゃなくてもいいものか?それともこいつMなの?
素の疑問をぶつけると、花木に「アホか」と頭を叩かれた。
「作ったけど、渡せなかったんだよな。嫌な思い出しかないんじゃない?凜の手元にあるそのチョコ。
だったら俺が食べたいの。その嫌な思い出、ちょっとでも消したいからさぁ」
花木がちょっと目を逸らしつつ軽い口調で言う。
「…何で花木は、」
あたしにそこまでしてくれるの。思わず漏れた呟きに、花木は「好きだから」と当たり前のように答えた。
好きだから、か。
反芻してみて、不意にふわっと視界が滲んだ。
好きでいてもらうって、大事にしてもらうって、こういうことなのか。
こんなに切ないような甘いような、優しい気持ちになれるのか。
最初のコメントを投稿しよう!