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「ごめん、やっぱり君より好きな子がいるんだ」
街では有名な待ち合わせ場所になっている噴水のそばでそう告げると、彼女の表情がすぅっと冷えて瞳が揺れた。
「…どんな子なの」
懸命に平静を保とうとしている声に尋ねられ、考えるより先に口が動いた。
「やたらと気が強くて、見た目に反して可愛げがなくて、鈍くてガサツで、
…でも、俺には誰よりも可愛い」
あいつの姿が思い浮かぶ。
ほんとは壊れやすいくせに、それをガサツさで隠す女。
驚異的な鈍さで俺の心や決心を砕きにかかる女。
でも…
「…そっ、か」
彼女の震えた小さな声に、はっと顔を上げる。
はっきりと真正面から捉えた彼女は、諦めたような泣き笑いを浮かべていた。
「いいよ、もう。
分かってたもん、玲(れい)が私じゃない人のこと、好きなんだって。
私の告白にOKもらう前からずっと知ってた…ずっと玲を見てたんだから」
「…ほんとに、ごめん」
絞り出すようにして詫びると、彼女に小さな紙袋を渡された。
「チョコレート…せっかく作ったから、食べて。
玲のこと考えながら作ったの…。
今までありがとう。
ハッピーバレンタイン…よい夜を」
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