春に告ぐ。

5/5
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
  母の愛のように優しく、そして大きな安らぎで包み込まれる感覚が、全身にじわりと温もりを与えてゆく。 それが、僕の心に閉じ籠っていた臆病さを押し出すかのように、その気持ちは自然と浮かび上がった。  この櫻に、託そうか。 貴女に会える頃、深い眠りに落ちている僕に替わって、この櫻ならきっと伝えてくれるだろう。 貴女の温もりを宿す、この櫻なら――。 幹に触れたままの両の掌に額を充て、瞳を閉じる。 貴女に届け。そう強く念じ、そっと呟いた。  「春に告ぐ……――。」  
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!