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「勝者、逆島断雄(たつお)」
畳のうえに座りこんだままのタツオの右手を、審判が高々とかかげた。タツオはジョージを見あげていった。
「ジョージ、ぼくは……ぼくは……」
あとはとても言葉にならなかった。目の前のひとつのちいさな勝負に勝つ。それだけのことがこれほどうれしいのは、なぜだろう。爆発するような喜びと安堵(あんど)感が、身体のなかを駆(か)けめぐっている。
3組1班の予選は、こうして3勝1敗で確定した。タツオはジョージに肩を貸してもらい、試合場をおりていった。テルとクニが拍手(はくしゅ)をしながら待っている。タツオにはなんとか右手を顔の高さまであげるだけで精一杯だった。後藤の首を締めあげるときに、力をつかい果たしたのだろう。両腕がしびれて、他人の身体のようだ。
(とにかく、今日はなんとか勝った)
タツオは畳のうえに伸びると、柔術場の高い天井を荒い息を繰り返しながら見あげた。
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