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 後藤にその指令が聞こえたのかはわからなかった。ただ脳で血流と酸素が不足して、意識を失っただけなのかもしれない。後藤の全身から力が抜けた。巨木が倒れるように後方にぐらりと傾(かたむ)く。タツオは腕を解くと、もう一度身体をスイングさせた。後藤の後頭部を叩きつけるように、今度は身体の正面に回る。柔術場全体が揺れるほどの衝撃で、2人分の体重が畳に落ちた。  タツオはすかさず後藤の首に腕を巻きつけ、ありったけの力をこめた。まだ時間は30秒もある。試合は終わっていないのだ。タツオには柔術場を埋める大歓声も聞こえなかった。ただこの敵を徹底的に制圧しなければならない。 「審判、試合を止めてくれ」  ジョージの声が耳元で聞こえた。肩をぽんぽんとタップする感覚がある。 「タツオ、きみの勝ちだよ」  タツオは太い首から腕をほどいた。あらためて後藤の顔を見る。鼻は潰れて血まみれで、目はうっすらと開いたまま光を失っていた。口の端には白い泡が見える。
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