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 タツオの身体は右手をあげた格好で伸び切り、後藤の両腕でがっちりと胴体を締めあげられた。タツオは力士のタフさを見誤っていた。鼻が折れたくらいでは、戦闘力にわずかなダメージがつくくらいなのだ。裸の肉体で毎日数百回のぶつかり稽古(げいこ)をこなす相手のタフさは想像以上だった。 「これでおれの出世も確実だ。おまえはおれの踏み段になってもらう」  後藤はそのまま全力で、タツオに鯖折(さばお)りを仕かけてきた。胴体を両腕で締めあげながら、全体重でのしかかり、相手の腰やひざを破壊する技だ。未成年者の相撲では禁じ手とされている危険な技だった。  タツオの胸には後藤の額(ひたい)が押しつけられていた。鼻血が流れ、進駐官養成高校のカーキ色のジャージをべたりと汚している。肋骨(ろっこつ)がきしみをあげていた。タツオは息が止まりそうだった。一度吐(は)くともう吸うことができない。 (くそっ、ここまでか)
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