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 壁の時計を見る。まだ試合時間は2分近く残っていた。このまま終わってしまっても、いいかもしれない。自分はもともと格闘技は得意でも好きでもないし、クラス内の試合で敗れたくらい、進駐官として将来なんの傷にもならない。酸素不足で気が遠くなってくる。  勝負をあきらめかけたときだった。そのとき涼しげな声が聞こえた。最初は幻(まぼろし)かと思った。まるで頭のなかに直接、メッセージを送りこまれたようだ。 「タツオ、そろそろ本気でいこう」  力みのない風のような声だった。ジョージだ。タツオは首を回して、斜め後方を振り向いた。目があうとジョージが微笑(ほほえ)んでいた。 「そんなものじゃないだろう?」  一段とおおきく笑って、親友がそういっいていた。タツオのなかでなにかが変わった。スイッチが入り、肉体の奥にあるもうひとつのエンジンが目覚めた新鮮な感覚がある。
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