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タツオは計算などしていなかった。意識もしていない。幼いときから身体の奥に叩きこまれた技が、一気に解放された。
伸び切った右の腕をたたんで、後藤の頭頂部に強烈な肘打ちを落す。左手は人さし指と中指を突きだした拳をつくり、そのまま短いフックを後藤の耳に突き刺した。宙ぶらりんだった右足を強く引き、くるぶしに力をこめて、かかとでサポーターを巻いた後藤のひざを上から踏み抜いた。
一瞬の3連撃でさしもの後藤も身体のバランスを崩(くず)した。左ひざは限界だったようだ。ゆっくりと畳に沈みそうになる。タツオの胴体をつかんでいた怪力がゆるんだ。タツオは後藤の太い首に腕を回した。ブランコの要領で身体を振り、巨体の背後に回った。首からぶらさがるような格好のまま、後藤の首を決めて頸動脈(けいどうみゃく)を締めあげた。
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