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「おい、何をする。引っ掻くな」
Y駅前のとある雑居ビル六階にある猫カフェでは、一人の青年が猫達に囲まれていた。
もうすぐ日が暮れようとしているY駅前は帰路につこうとする大人や学生達で賑わっていた。本来ならこの青年も猫カフェと同じビルにある自らが経営する探偵事務所「蘇王(すおう)探偵事務所」を閉め、帰宅するはずだったのだが。
「仁摩(にま)め……。許さん」
青年は暮れゆく空に向かって呟いたのだった。
「霧宮(きりみや)。悪いんだけど、ピカちゃんから突然『今夜会いたい』ってメールが来てさ。今から出かけるから猫達の夕飯お願いしてもいいかな?」
その日の午後、事務所で本を読んでいた青年――蘇王霧宮は突然やって来た友人を眼鏡の奥から訝しげな目で見た。
「仁摩。ピカちゃんというのは誰かね」
「俺の彼女。この間、ペットショップに行った時に出会った、新しく入ってきたアルバイトの子でさ。あっ、ピカちゃんっていうのはあだ名な」
「この前はナナ君を連れていなかったかね」
「ナナはさー。新しい彼氏が出来たって言って別れたんだよ。まー、俺は大人だから、おとなしく別れたわけ」
友人――仁摩の言葉に霧宮はため息を吐いた。仁摩は蘇王が探偵事務所を開いている同じ雑居ビルの六階で猫カフェ「Candy Cats」を経営していた。
大学時代からの友人でもあり、出会った頃から彼女と別れては、すぐに別の彼女を作っていた。それは今も変わらず続いているようだった。
「てなわけで、よろしくー」
そう言って、仁摩は店の鍵を置いて行くと、事務所を出て行ったのだった。
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