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人が一人いなくなっただけで、部屋は驚くほど様子を変える。その人の私物よりも匂いよりも、一番大きいのはやっぱり、空気だと思う。その人の纏っていた空気や気配が、もうそこにはないということ。
素材や色にこだわって購入したソファやチェストたちが、ぽつんと寂しそうに取り残されている。
物のひとつひとつに思い出が染み付いている。これしかないと思うようなものを買ったはずなのに、今となっては、そんなものなんの意味もなさないように思えてくる。
ちょうど今の私みたいに。
誰か一人にでも必要とされていればそれでいいと思っていたのに、でもその誰かがいなくなった時には、途端にすべてを失う。
すべて、そう言い切れるくらい、ここで過ごした時間は大きかったのだ。私にとっては。
あの夏から、ようやく一年が経った。
長いようで短かったと、考えてみれば当然のようなことを、今にしてみれば思える。
はじめにあった身体を突き刺すような痛みは、氷が解けるように、一年かけてゆっくりと、消えていった。
たった一度の気の迷いが、すべてを変えた。
やり直すことができるのなら、時間を巻き戻してしまいたい、そんな風に思った時期もある 。
でもそうしたところで、結局は同じことだったかもしれない。
早いか、遅いか。
逃げるか、苦しむか。
きっと、それくらいの違いしかなかったんだろう。
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