ルームメイト

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優しくて、信頼されてて、とその後も梓は帰宅するたび、その男の話を延々と続けた。 彼女の口から零れ出る『素敵』や『好き』といった言葉たちは、日に日に威力を増すようになり、無遠慮に私の心をチクリと刺した。 痛みはどんどん大きくなり、やがて制御できないほどになっていた。 もう私は、梓の幸せを喜べなかった。 その男にも興味を失くしていた。 興味があるのは、梓という女、ただ一人だった。 ある日、梓が男を家に連れてくると言った。あなたに紹介したいの、と。 そして週末、梓は本当に男を連れて帰ってきた。 「おじゃましまーす」 と、挨拶も言い終えないうちにずかずかと部屋に入ってきたその男は、梓の惚気話から創り上げてきた私の想像上の人物とは、随分違うタイプのようだった。 二つ歳上らしいが、首や手首にジャラジャラとアクセサリーをつけていて、喋り方も座り方も、いちいちだらしない。 優しいかもしれないが、少なくとも周りに信頼されているようには見えなかった。 「さ、飲みましょーや」 男は買ってきた缶ビールを開け、おもむろに飲み始めた。そして、断りもなく煙草に火をつけ、吸い始めた。 この男のどこがいいのだろう、と私は思った。梓の一番嫌いなタイプではなかったか。チャラチャラしていて、遠慮がない。街中でもそういう人種が目につくたび、顔をしかめていたのは梓のほうではなかったか。 けれども今、その男の横顔を、梓は恍惚とした表情で、愛おしそうに見つめている。 瞳はかすかに潤み、口元は終始緩みっぱなし。お揃いの、よく知っているはずの香水の匂いが、彼女の身体からよそよそしく漂ってくる。 私はできるだけ嫌悪感を表に出さないように、酒をひたすら飲み続けた。飲まなければ、平常心ではやっていられなかった。 それがいけなかった。 思えば、制御できないほど飲んだのは、その時が初めてだった。 何を話していたのか、まるで覚えていない。きっと、聞き役に徹していたのだろう。その男は、聞いてもいないことを弾丸のように喋り続けていたから。
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