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静寂だけが残った。
彼らはどこへ行ったのだろうか。男の家だろうか。
梓が意識を取り戻した時、あの男はなんと言うのだろうか。気持ち悪いと、もう会うなと、そう言うのだろうか。
もう会えない。それが当然の結果にも思えたし、信じられないことのようにも思えた。
どんなに恋人に止められても、梓は戻ってくるような気がしていた。あの阿呆臭い男よりも、私との生活を選ぶと信じていた。
でも梓は、この部屋に戻ってくるどころか、電話の一本すらかけてこなかった。
止められているのか、それとも、彼女の意思だろうか。
二日後、荷物を送って下さいと男の字で殴り書きされた手紙が届いた。送り先は、彼女の実家だった。
私は体調不良と理由をつけて仕事を休み、一日かけて、梓の私物をダンボールに詰めていった。
パステルカラーの洋服も、下着も、バッグも、香水も。その一つ一つに、彼女の気配が染み込んでいた。
こんなにも跡をつけていくなんて卑怯だと思った。
もうそこにはいないのに、気配だけが色濃く残っている。
私はそれを打ち消すように、排除するようにして、ダンボールを閉じた。これでもかというほど、テープでぐるぐる巻きにした。
うっかりこじ開けてしまわないように。
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