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キッチンに向かうと、テーブルにあの人が頬づえを付いていた。
僕に気付くと瞳が優しく煌めき、唇がゆっくりと動いた。
「起きたか?こっちに来て。」
甘やかな声に誘われるように、ふらふらとあの人の前に立つ。
僕の頭をその両手で包みこ込むように優しく撫でていく。
あと少しで、キス出来る程の距離にあなたの唇と瞳がある。
「吐き気や、めまいはあるか?」
「ううん、ない。」
あの人はフーと息を吐きニッコリ笑った。裏表のない、綺麗な笑顔で。
「なら、大丈夫かな?もし、嘔吐するようなら、また病院な。」
僕は近いことをいいことに、あの人を抱きしめた。
首元に顔を埋めて、あなたの甘い香りにつつまれる。
「もう、九谷病院はイヤだなぁ…。」
その言葉にあの人は体を固くする。
「診てもらうなら、佐野さんがいい…。もう、お医者様にならないの?」
「ここの学園の用務員何だろう?俺は。もう…医者じゃないよ。」
「そうだけど…そうなんだけど、僕は貴方がいい。」
貴方は少しだけ息を吐いてから、もう無理なんだ。と呟いた。
「うん、でも…僕だけならいいでしょ。僕だけのお医者さん。」
貴方はクスクスと笑い、ワガママだなと。うん僕はワガママで独占欲の塊なんだ。
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