酔客跋扈 第5話

渡し

｢充分楽しんだろう？　これだけの酔漢を異形に変えたのだからな｣
目前､地に伏した異形どもが既に塵と化しつつある｡
ジャランッ
放った得物が酔鬼に跳ねとばされて､それならばと彼岸が跳躍する｡身を丸め込み､喉元を蹴りつけるが､鬼の腕に振り払われて､態勢が崩れた｡
酔鬼に捕らえられ､その腕で首を締め上げられる｡
もがくが､びくともしない｡
しばらく｡
キン､と硬質なものを弾いたような音がする｡同時に勢い良く旋回した杖の先が､鬼の腕を突き上げた｡
｢遊んでいるからだろ｡さっさと片付けちまいなよ｣
　先端が素槍になっている錫杖に､鈍い光を反射させて､流し着物の青年が佇んでいる｡
この男､他者が既に逃げ去っているというのに､呑気にも酒を､先程まで楽しんでいた｡
怒る酔鬼が彼岸を放り出し､男に突進している｡
｢お前の相手は､俺じゃあない｣
ほら､と顎で示して男は鬼から逃げもせず､身構えもせず､動かない｡
受け身を取った彼岸がふたたび鬼へと跳躍し､自身の腕を一閃させる｡男に迫る酔鬼の首が一瞬静止して留まり､ゆっくりとずれて落ちていった｡

異形を彼岸に導く渡し｡その傍らには蓮という名の正体不明の男がいた｡
渡しの名は彼岸｡異形の畏怖する存在としてあるという｡

　　　　　　　　終幕