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数日後、私は針のムシロに座らされていた。
どうして千笑ちゃんの車に乗る前にちゃんと行き先を確認しなかったのだろう。
後悔してももう遅い。
白いケープを頭からすっぽりかぶせられ、
てるてる坊主のようになった私に、お洒落な格好の大人たちが口々に
「かわいいねー」
「わあ、お人形さんみたい」
と声をかけていく。
海沿いの洋館、白を基調とした明るく広々とした空間に、大きな鏡がいくつも並ぶ、いわゆるサロンと呼ばれる美容院だ。
腰にポーチのようなものを提げた、スラリとした青年が近づいてくる。
それまで私の後ろで仁王立ちして、他のスタッフたちを、シッシッと追い払っていた千笑ちゃんの顔が崩れた。
気心が知れた友人のように談笑する二人を見て、千笑ちゃんの派手な巻き髪は、この人の手で作られたのだと思った。
「初めまして。シンです」
彼はアルファベットで“Shin”と書かれたネームプレートを指差し、
自己紹介しながら、慣れた手つきで私の髪をなでようとした。
瞬間、うわっと思った私は反射的に体を反らして、その手を避けてしまった。
あまりに過敏な反応にシンさんも驚いたようだったが、
すぐに、気まずい空気を一瞬で取り払うような柔和な笑顔を作った。
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