壊される夜ー1

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新年会の店は会社から歩いて数分の、ごく近い場所にある。 手早く身仕度を終えて通用口で待っていてくれた課長と合流すると、上品な濃いグレーのコートに並んで歩き始めた。 「そうだ、課長。 あの…先週のことなんですが」 この一週間、羽鳥課長と二人きりで言葉を交わす機会がなかったから、今しかないと切り出した。 「シャツ、汚してしまって本当に申し訳ありませんでした」 立ち止まって頭を下げる。 あんなシャツ、奥様に誤解されたりしていないだろうか? 「え?全然いいのに」 「せめてクリーニング代を…」 「いいって! 律儀だなぁ、亀岡さん」 朗らかに笑う課長に促され、また歩き始める。 「どうせいつもクリーニング出してるし一緒だよ。気にしないで」 「…いつもクリーニングなんですか?」 奥様はアイロンがけが嫌いなのかしら? 「うん、そうだよ」 私の顔に浮かんだクエスチョンマークを読み取ったらしく、課長が苦笑した。
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