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「彼女のことは知りませんが、そう弱い人間ではないのでは?」
「……」
そう。
深沢さんは本当は強い人だ。
私より、ずっと。
帰国した当時、彼女と怜の接近を知った私は、ほぼ初対面だった彼女を呼び出したことがあった。
冴えない感じの彼女はどう見ても怜と釣り合っていなくて、私に対しても怯えてビクビクしていた。
けれど、上司と部下の立場を尊重しなさいと牽制する私に、彼女はどもりながらも真っすぐに怜への思いを口にした。
それなのに、その後彼女は怜の立場を思い、すべてを封印して身を引き、黙って耐えた。
あの時、何も望まず負け戦に身を捨てる彼女の純粋さを見て、私は内心自分を恥じた。
彼女は、勝つことしかできない私より遥かに強い人間だ。
物思いに沈む私に、篠田の言葉はさらに続いた。
「健気なのもいいですが、それは相手を甘えさせ鈍感にしますよ。
俺には先輩が自分の首を絞めてるようにしか見えませんが」
そんなこと分かってる。
だけど私は、苦しみたいの。
「…篠田君には分からない」
顔を背けたまま、必死に言い返した。
「誰かを本気で好きになったことなんかないくせに。
一人だけを、ずっと」
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