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カランカランと揺れて響いていた氷の音が、カチャッとグラスを空ける乾いた音で止まった。
「そんなにあの男がいいですか?
何年も一緒にいた女が、真っ青な顔で無理して笑っていることに気付こうともしない男が」
「…怜は悪くない」
「怜、ね」
フッと鼻で笑うのが聞こえた。
「片桐主任は悪くないの。
だって、彼は…」
本当は私、分かってる。
怜自身もきっと気付いていない事実に。
怜が、私のことを本当に愛したことなんてなかった、って。
彼はただ、私が恋人だから精一杯大切にしてくれただけ。
「昔からそうでしょう。
上海の赴任前だって、先輩の本心に気付きもせず、爽やかに笑って背中を押してたじゃないですか」
「私の本心?」
「行くなって止めて欲しかったんでしょう?渡航前、戸川に抱きついて泣いたのは」
「やめてよ!」
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