3164人が本棚に入れています
本棚に追加
触れられたくない過去を持ち出されて、思わず声が高くなった。
「戸川君から聞いたの?」
「あいつはそういう奴じゃない。
噂の出所は知りません」
悔しいのに何も言い返せなくて、涙が滲んで声が震える。
「何が楽しいの?
そんな昔のことまで…」
上海行きを止めて欲しかった私は怜を嫉妬させたくて、人気のない残業中のオフィスで戸川君に抱きついて泣いたことがあった。
怜が見ていると知っていて。
でも怜は何も言わず、
何も変わらなかった。
「何もかも、本人の私が一番分かってる」
彼が私の心に気付かないのは、
私を見ていないからだって。
でも、私の強さが好きだと称賛する彼の前では、私は強い女王でいるしかなかった。
だから、あんな歪んだ形でしか自分の弱さを伝えられなかった。
「私の気持ちなんて、何も知らないくせに…」
とうとう涙が溢れてしまって、もう篠田の方に顔を向けることができなくなった。
最初のコメントを投稿しよう!