壊される夜 ー2

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「……適当に頼みましたよ。 さっきと違うのを」 しばらくハンカチに顔を埋めていると突如声が降ってきて、驚いて顔を上げた。 目の前に置かれたのは、飲んだことのない淡い紫色のお酒。 篠田はバーテンダーを呼び寄せずにオーダーしに行ったらしい。 泣いているのを見られたくない私への気遣い? ……いや、この男にそれはない。 自分の顔の状態を思い出して、慌ててまた俯く。 「アルコール低めです」 カタンとまた隣にかける気配で、なぜか余計に涙が溢れてくる。 篠田はそれきり、黙ったままで。 氷の音が響くのを聞きながら、 黙って静かに泣き続けた。
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